こんなものが薬に!? ユニークな漢方薬の原料9つ ※知る覚悟が必要な番外編あり

漢方薬の原料になる生薬。意外なものや珍しいものを9種類と、番外編として、知ったら飲めなくなるかもしれない生薬も4種紹介。興味がある人は覚悟を決めて調べてみて!

執筆者: 田伏 将樹 職業:薬剤師(漢方薬・生薬認定薬剤師)
こんなものが漢方薬の原料に!?

こんにちは、薬剤師の田伏将樹です。

今回は、漢方薬の原料に使われているユニークな生薬についてご紹介します。

 

 

漢方薬は、薬草を煎じて飲むものだから、植物の葉っぱや根っこが使われているのだろうと想像される方が多いと思います。

 

確かに、漢方薬の原料のほとんどは植物由来のものなので、そのイメージは間違いではありません。

しかし、漢方薬に用いられる原料はそれだけではありません。


時には、動物(昆虫も)、時には鉱物なども使用されています。
購入した漢方薬の成分に書かれている薬の名前からは想像できない、意外なものが配合されているかもしれません。
例えば、阿膠(アキョウ)、蝉退(センタイ)、竜骨(リュウコツ)、紫河車(シカシャ)、海馬(カイバ)…
さて、いったいこれらの正体は何でしょうか。

 

医療用の漢方薬に入っていることもある、ユニークな生薬
阿膠(アキョウ)、蝉退(センタイ)、竜骨(リュウコツ)、牡蛎(ボレイ)、石膏(セッコウ)


これらは実際に、医療用の漢方薬にも入っています。

阿膠(アキョウ)

ロバの皮や骨などからつくる膠(にかわ)のことです。

膠とは、肉や魚で煮物を作ったあと、煮汁が冷えてゼリー状に固まった煮こごりのようなもの。

いわゆるゼラチンです。

コラーゲンやアミノ酸が含まれています。

 

婦人科で処方される漢方薬に配合されている場合があるのですが、ロバから作るものは高価なので、実際には他の動物から作った代用品であることが多いです。

 

 

蝉退(センタイ)

昆虫のセミの抜け殻です。

痒みや炎症によいとされていて、「消風散(しょうふうさん)」という漢方薬に配合されています。

 

竜骨(リュウコツ)

土の中から掘り起こされる、哺乳動物の骨の化石です。

資源に限りがあり、将来枯渇することが確実な薬のひとつ。

鎮静作用があり、精神不安を改善する薬です。

 

牡蛎(ボレイ)

海で採れるカキ(牡蛎)の貝殻です。

カキの身は、海のミルクと言われるくらい栄養が豊富な食べ物ですが、牡蛎(ボレイ)として用いるのは身ではなくて、貝殻の方だけ。

効能は竜骨と似ていて、一緒に配合されていることが多いです。

 

なお、サプリメントで牡蛎肉エキスとして売られているのは、身の部分で、効能も異なります。

 

 

石膏(セッコウ)

石膏と言えば何を思い浮かべますか。

型を取るときに流し込む白い液体、または学校にあるチョークの材料でしょうか。

 

漢方薬に使う石膏というのもそれと同じようなもので、化合物の名前で言うと「硫酸カルシウム」です。

熱を冷ましたり、炎症を鎮めたりする効果があります。

 

漢方薬局などで取り扱うことのある、ユニークな生薬
紫河車(シカシャ)、牛黄(ゴオウ)、鹿茸(ロクジョウ)、海馬(カイバ)


これらは、漢方薬局などで取り扱うことがあります。

紫河車(シカシャ)

哺乳動物の胎盤のことです。

化粧品やサプリメントの分野では「プラセンタ」と呼ばれているものです。

プラセンタは最近登場した美容成分だと思われているかもしれませんが、漢方の世界では以前から治療に利用されています。

 

牛黄(ゴオウ)

牛の胆石、つまり、胆のうに生じる結石です。

もちろん牛の全頭に胆石があるわけでなく、稀に見つかるものです。

希少価値があり、牛黄が配合される製品は、値段も高めです。

 

鹿茸(ロクジョウ)

オスのシカの幼角(を乾燥したもの)です。

シカの角は何度も生え変わります。抜ける前の角は骨のように硬くなりますが、幼角はまだ軟らかい角です。

成長中の角の中には血管が通っていて、栄養のある血液も流れ込んでいます。

滋養強壮の薬となります。

 

 

海馬(カイバ)

海にいる馬と書いて、英語ではシー・ホース。

タツノオトシゴの仲間です。

これも、強壮剤として使われます。

 

【番外編】知ったら飲めなくなるかもしれない、ユニークな生薬

他にも珍しいものが薬として使われています。

 

  • 地竜(ジリュウ)
  • 水蛭(スイテツ)
  • 䗪虫(シャチュウ)
  • 蟾酥(センソ)

 

知らない方が良かった…と思われる可能性があるので、これらの正体は伏せておきます。

興味のある方だけ調べてください(覚悟して)。

 

なお、漢方薬の原料として流通しているものは、薬として服用しても問題がないように、きちんと管理されているものです。
漢方薬の原料とするために作られたり育てられたりしているものですので、ご安心ください。

 

薬効があるとどうしてわかったのか、先人の苦労がしのばれる…

東洋医学の誕生した中国は、とても広い国です。

海の近くに住む人、山に住む人、乾燥した寒い地域に住む人、南の暖かい地域に住む人。

生活している環境が違えば、そこに生育している生き物も多種多様です。

 

病気になったときは、なんとか苦しみを和らげてくれるものはないかと、それぞれの地域で採れる、ありとあらゆる植物・動物・鉱物を試してみたのだと思います。

成分を分析する機器がない時代に、これに薬効があるかもと期待して、飲んでみた勇気はすごいことかもしれません。

または、治療薬が他にないからやむを得ずだったのかもしれません。

ですが、それらの経験が言い伝えられ、知識が集められ蓄積されて、やがて漢方薬へと発展してきます。

 


漢方薬の成分の中には、どうしてそんなものに効果があるのか、科学的にまだきちんと証明できていないものも多くあります。

しかし、証明できないからといって、効果がないとは言えません。

何百年も昔の時代からずっと、さまざまな薬が使われ続けてきて、効果を得られたものが残り、今もなお使われているもの、というのは確かな事実です。